上司として積極的に話し掛けても本音を言わない部下に対して、不満を抱いてしまうことがありますよね。
また、部下との年齢差が広がるにしたがって、「どう対応すれば良いのだろう」と考えてしまうのが上司の心情ではないでしょうか?
そんな悩みを解決するべく、今回は部下が本音を言わない理由や上司ができる対応を紹介します。部下の本音を聞くためのノウハウが詰まっているので、ぜひ参考にしてください。
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部下が本音を言わない理由とは?
部下が本音を言わないと感じたとき、「なぜ、本音を語らないのだろう」と疑問に思うこともあるでしょう。
2016年に株式会社コーチ・エィ、コーチング研究所LLPが行ったアンケートによると、「あなたが上司へ素直に意見を言わない場合の主な理由は何ですか」という設問に以下のような回答がありました。
- 伝えても何も変わらないから(31%)
- 話を早く進めたいから(19%)
- いつも言えている(14%)
- 相手との関係が悪くなるから(13%)
- 自分の意見に自信がないから(10%)
圧倒的に多かったのが「伝えても変わらないから」という理由であり、そもそも話してもしょうがないと諦めている部下も多いようです。
中には、普段から本音を「いつも言えている」という部下もいるようですが、全体の2割にも至っていません。
次の章からは、部下が本音を言わない理由について具体的に解説していきます。(3番目の「いつも言えている」は、本音を言わない理由に当たらないので省略します。)
部下が本音を言わない理由①伝えても何も変わらないから
前述したように、部下が本音を言わない理由として圧倒的に多かったのが「伝えても何も変わらないから」でした。具体的なコメントとしては、以下のような声が挙げられています。
- 自分が意見を言う前から決めかかったような言い方をする
- 自分の意見を伝えたが、聞こうとする姿勢が見られなかった
- 上司自身の世界ができあがっていて、他の世界を受け付けない
このような場合だと、部下が諦めてしまっている状態にあり、まともに対話をすることは難しいでしょう。本音で話してくれるまでには、長い時間と努力が必要となります。
まずは上司と部下では異なる意見を持っていることを認識し、相手の声に耳を傾ける・素直に意見を受け止めることから始めていきましょう。
部下が本音を言わない理由②話を早く進めたいから
2番目に多かったのが「話を早く進めたい」という理由でした。具体的なコメントとしては、以下のような声が挙げられています。
- 対話によるアイデアのブラッシュアップが行えない
- 上司が判断を下せず、意見に対する返答が貰えない
コメントからも分かるように、「話を早く進めたい」と思っている部下は、「上司に話しても無駄」と諦めている状態にあります。
このような場合、部下からの信頼を完全に失っているので、本音を話してくれるまでには時間が必要となるでしょう。
部下へ本音を求める前に、部下のスキルを高める知識・上司として必要な判断力を磨く必要がありそうですね。
部下が本音を言わない理由③相手との関係が悪くなるから
3番目に多かったのが、「相手との関係が悪くなるから」という理由でした。具体的なコメントとしては、以下のような声が挙げられています。
- 意見が異なると一切拒否され、「私を誰だと思っているんだ!」と一喝される
- 意見を伝えても、十分な議論には至らず雰囲気が悪化する
上司との関係性を壊したくない人もいれば、社内の雰囲気を乱したくないと我慢している人もいるようです。前述した2つの理由と同じように、本音を言うことを諦めてしまっている状態にあります。
良い職場をつくるのも上司としての役割ですが、「雰囲気が悪くなるから…」と部下に気を遣われていては本末転倒ですよね。
たしかに部下に助言をする・注意をすることも上司の務めですが、自分の意見を押し付けるのは控えるようにしましょう。
部下が本音を言わない理由④自分の意見に自信がないから
4番目に多かったのが、「自分の意見に自信がないから」という理由でした。
この理由に関するコメントは見られませんでしたが、自分に自信を持てない人には以下のような特徴があるようです。
- 自己否定が強い
- 自分を過小評価している
- 物事をネガティブに考えやすい
- 失敗するのが怖い
- 周りを気にしすぎる
他にも、コンプレックスやトラウマを抱えており、中々自信をつかめない人もいるようです。
人によって自信がない理由は様々ですが、自信を付けさせるためには「成功体験」を積ませることが重要になります。
自信を持っていない部下には、積極的にサポートを行ったり業務に同行したりして成功体験を積ませると良いでしょう。
本音を言わない部下に上司ができること
ここまで部下が本音を言わない理由を紹介しましたが、この章からは上司ができる部下への対応について紹介していきます。
前述した理由を掘り下げると、「意見を聞いてほしい」という部下の心情を察することができます。
そんな部下に対しては、「アクティブリスニング」というコミュニケーション技法を使うと良いでしょう。
アクティブリスニング:アメリカの臨床心理学者であるカール・ロジャースが提唱した「傾聴姿勢」のこと
アクティブリスニングは、カウンセリングに用いられる技法であり、ビジネスシーンにおいても注目されている技法の1つです。この技法を使えば、部下が本音を話しやすい雰囲気をつくることができますよ。
尚、アクティブリスニングには「バーバル・コミュニケーション」と「ノンバーバル・コミュニケーション」の2つの技法があるので、次の章から詳しく紹介していきますね。
アクティブリスニングの手法①バーバル・コミュニケーション
バーバル・コミュニケーションとは、言葉のやりとりによって相手の本音を聞き出す「言語的コミュニケーション」です。ちなみにバーバルとは、「言語的」という意味を持っています。
バーバル・コミュニケーションのポイントとしては、以下の4つが挙げられます。
- 受容・共感をする
- 相槌を打つ
- オウム返しをする
- 質問を投げかける
最初から全てをこなすのは難しいですが、上記のポイントはコミュニケーションにおいて大切なスキルとなります。
部下の本音を聞き出すときにも有効な方法なので、まずはできることから意識してみてくださいね。
受容・共感をする
アクティブリスニングにおける「受容・共感」とは、「傾聴姿勢」のことです。相手の立場や目線に立つことで、「自分の気持ちが伝わっている」という安心感を与えられます。
話を聞きながらうなずいたり「大変だったね」と言葉を掛けたりすることで、部下は「自分に共感してくれている」と捉えてくれます。
安心感・共感を与えることができれば、部下の方も本音を話しやすくなるでしょう。
相槌を打つ
会話の中で「そうだね(同意)」「そうなんだ(気づき)」「なるほどね(感嘆)」といった槌を打つのも効果的です。
但し、感情が込もっていなかったりパターンが決まっていたりすると、「本当は聞いていないのでは?」と不安を与えてしまいます。
信頼があってこそ本音を話すことができるので、不安を与えないよう注意しながら相槌を打ちましょう。
オウム返しをする
オウム返しをすると、相手に自問自答を促すことができます。部下も「本当に自分はそう思っているのか?」と自己に向き合えるので、より本音に近づくことができるでしょう。
オウム返しといってもそのまま言葉を返すのではなく、「今の話は◯◯と理解したけど、その認識で間違いないですか?」と振り返る機会を与えられると良いでしょう。
質問を投げかける
アクティブリスニングでの質問は、「はい」「いいえ」というクローズドクエスチョンではなく、「そのとき、あなたはどう感じましたか?」というようなオープンクエスチョンにすることが大切です。
こうすることで部下は「話を聞いてもらえてる」という安心感を感じつつ、話題も広がって自分の意見を述べてくれるようになります。
アクティブリスニングの手法②ノンバーバル・コミュニケーション
続いて紹介するノンバーバル・コミュニケーションは、態度や仕草に注目して、相手の本意を読み取る「非言語的コミュニケーション」です。
ノンバーバル・コミュニケーションのポイントとしては、以下の5つが挙げられます。
- 姿勢
- 視線
- 表情
- 仕草
- 声
アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」によると、話し手が聞き手に与える影響度は、表情などの視覚情報が55%・声の質や大きさなどの聴覚情報が38%という結果が出ています。
それに比べ、言語情報の影響度は7%とされているため、いかに外部からの情報が大切なのか分かります。
ノンバーバル・コミュニケーションは、相手の本意を読み取る技法でもありますが、上手く活用することで本音を話しやすい環境をつくることも可能です。
バーバル・コミュニケーションと同様に、最初から全てこなすのは難しいので、できることから意識してみてくださいね。
姿勢
相手の話を聞くときは、姿勢がとても重要となります。リラックスした状態で話者の方に体を向けて、程良い距離感を保ちながら話を聞きましょう。
部下が話しやすい環境をつくることも、本音を聞き出すのには重要なポイントです。腕や足を組んだり手遊びをしたりするなど、部下に不快感を与えないように注意しましょう。
視線
会話中はなるべく視線を合わせるよう意識しましょう。視線があちこちに動いたり全く目を合わせなかったりすると、相手に不信感を与えてしまいます。
但し、相手によっては目を合わせるのが苦手な方もいるので、相手の様子を伺いながら会話をすると良いですね。
表情
ノンバーバル・コミュニケーションにおいて、最も情報が多く得られるのが表情です。表情からは、性別や年齢といった情報だけでなく、感情が表れることで心理状態も読み取ることができます。
また、相手に合わせて嬉しさや悲しさを表情に出すことで、共感を表現することができるとされています。
共感を得ることで部下も本音を伝えやすくなるので、会話に余裕が出てきたら、表情も意識してみると良いでしょう。
仕草
表情と同じように、無意識のうちに感情を表現しているのが仕草です。例えば、仕草が挙動不審である場合は、「本音で話していないかもしれない」と考察することもできます。
仕草からも多くの情報を得られるので、表情と共に注目しておくと良いでしょう。
声
コミュニケーションを図るときは、声のトーンやボリューム、テンポなどを意識してみましょう。声が大きすぎたり早口になったりすると、情報や感情が上手く伝わりません。
心地良く話を進めていくためにも、会話のペースを相手に合わせられると良いですね。
部下へのフィードバックを行うことも大切
前述した「アクティブリスニング」は、部下の本音を聞き出すときに有効な手段の1つです。ただ、中には「具体的な意見・アドバイスがほしい」とブラッシュアップを求めている部下もいます。
部下が本音を言わない理由でも紹介したように、上司と話しても「ブラッシュアップが行えない」という理由で、本音を話さない部下も少なくありません。
そんな部下に対しては、適切なフィードバックを行うことが大切です。フィードバックの内容を考えるときは、以下の3つのポイントを意識してみましょう。
- 的確な指導をしてスキル・能力の向上を促す
- 部下の言動を承認する
- 今後の期待・課題も伝える
的確な指導をしてスキル・能力の向上を促す
フィードバックを求めている部下に対しては、部下の課題に対して具体的に指導・アドバイスすることが大切です。
ただ「〇〇をした方が良い」と伝えるのではなく、いつ・どういう状況で・どういう行動が問題であったのか、それがどのような影響があったのかを伝えられると部下も理解がしやすくなります。
適切なアドバイスを与えることで、部下自身も成長できると感じられ、上司に対して信頼を抱きます。上司としての信頼が高まれば、部下からも本音を聞き出しやすくなるでしょう。
部下の言動を承認する
フィードバックをする際は、指導をするだけではなく、部下の「承認欲求」を満たすことが大切です。人間は「認められたい」という承認欲求があるので、欲求を満たすことで信頼を得ることができます。
例えば、「先月よりも成績が伸びてるね」と成果を承認したり、「データのまとめ方が上手くなったね」と日頃の行動を承認したりすると良いでしょう。
的確なアドバイスに加え、承認欲求を満たすことで、部下からの信頼もより厚くなるでしょう。信頼がなければ部下も本音で話そうとは思わないので、しっかりと部下の様子を確認して承認するように努めましょう。
今後への期待・サポートの継続を伝える
フィードバックの最後には、今後への期待・サポートを継続していくことを伝えましょう。今後への期待・継続したサポートはモチベーションの向上にも繋がり、効率的にブラッシュアップを行えます。
とはいえ、スキルの向上・信頼関係の構築には手間と時間が掛かるものです。1年に数回ほどのフィードバックでは不十分なので、日頃から部下の様子に目を配り、こまめにサポートやアドバイスができると尚良いですね。
部下の成長を促せる上司の方が、部下からの信頼も得やすいので、率直な意見を聞き出しやすくなるでしょう。
部下に本音を話してもらうには自分から変わることが大切
ここまで紹介した内容からも分かるように、部下に本音を話してもらうには自分を変えなければ何も始まりません。
現に部下が本音を言わないということは、自分の考えや態度を改めない限り、これからも本音を話してくれることはないでしょう。
一概に上司が悪いという訳でもありませんが、相手を変えようとするよりも、自分の対応を変える方が非常に効率的です。上司の方から歩み寄り、本音を話せる環境をつくるように努めましょう。
部下が本音を言わない理由・上司ができる対応まとめ
今回は、部下が本音を言わない理由と上司としての対応の仕方を紹介しました。改めて紹介した内容を簡単にまとめてみます。
- 伝えても何も変わらないから
- 話を早く進めたいから
- 相手との関係が悪くなるから
- 自分の意見に自信がないから
- バーバル・コミュニケーションを意識して、相手の本音を聞き出すように努める
- ノンバーバル・コミュニケーションを意識して、相手の心情を読み取る
- フィードバックを行い、部下のブラッシュアップを促す
部下に本音を話してもらうには、時間と労力が必要となります。また、部下に本音を話してもらうには、まずは自分自身が変わらなければなりません。
一筋縄にはいかないときもありますが、状況を改善しようと努めているあなたであれば、きっと部下の方も気持ちに応えてくれるでしょう。