「部下を守るために、ハラスメントの基本的な知識が知りたい…。」と考えている、部下思いの上司もいるのではないでしょうか?
ハラスメントに関する相談件数は、2006年から2018年にかけて約4倍にも増加しています。さらに、上司が部下にハラスメントにあたる行為に該当すると、最悪の場合、懲戒解雇処分を受けることもあるのです。
また、ハラスメントが職場で発生してしまうと、職場環境が一気に悪化してしまいます。上司であるあなたは、部下を守り、良い職場環境を作りたいと願っているはずです。
そこでこの記事では、ハラスメントに関する基礎知識について徹底解説していきます。この記事は、以下の順番で内容を解説していきます。
- ハラスメントの3つの種類について
- データから見る、ハラスメントの現状について
- ハラスメントに関する罰則について
- 3つの裁判事例から見るハラスメントの現状
- 上司がやるべき3つのハラスメント対策
この記事を最後まで読めば、ハラスメントに関する基礎知識が身につきます。ぜひ、働きやすい職場環境を目指していきましょう。
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ハラスメントには主に3つの種類がある
ハラスメントには様々な定義があり、一口で言い表すことは難しいです。
ただ、その中でもよくハラスメントとして取り上げられている問題は、「パワーハラスメント」、「セクシュアルハラスメント」、「マタニティハラスメント」の3つが挙げられます。
そのため、この記事では、これら3つのハラスメントに絞って解説していきます。次の項目では、それぞれのハラスメントに関する詳細を説明します。
他にも、性別に関する差別的な言動が行われる「SOGIハラ」や、障害者に対する精神的・肉体的な嫌がらせである「障害ハラ」、ネットでの誹謗中傷や嫌がらせといった「ネトハラ」などがあります。
パワーハラスメント
「パラーハラスメント」とは、次に紹介する、1から3までの3つの要素を全て満たす行為のことを指します。3つの要素とは、次の通りです。
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業関係が害される
具体例を挙げると、上司が部下を蹴る、仕事ができないことをとやかく言及する、部下を無視して職場の人間関係から切り離すなどがあります。
セクシュアルハラスメント
「セクシュアルハラスメント」とは、職場において働く人の意に反する性的な言動により、働く人が不利益を受けたり、就業環境が損なわれることをいいます。
具体例を挙げると、女性の部下がいらいらしている時に、上司から「生理前だからか?」としつこく言われたり、上司が女性の部下とすれ違いざまに、腰や胸などを触ってきたりすることなどがあります。
マタニティハラスメント
「マタニティハラスメント」とは、職場において働いている人からの言動によって、妊娠・出産した「女性社員」や、育児・介護休業を申し出または取得した「男女社員」の就業環境が害されることです。
具体例を挙げると、「産休育休をすると休んだ上に給料が貰えるんだよね。楽でいいね。」ということや、出産・育児休暇を上司に申し出たら「いや、人手不足だから今休まれても困る。」といったことがあります。
次の項目では、「ハラスメント」が発生している現状について、データを使って解説していきます。
データから見るハラスメントの現状
都道府県労働局に寄せられた、「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は年々増加しています。2006年には22,153件でしたが、2018年には82,797件と、約4倍にも増加しているのです。
出典:あかるい職場応援団 – ハラスメント基本情報 – データで見るハラスメントより
また、「セクシュアルハラスメント」に関する相談件数も、2017年は6,808件、2018年は7,639件と、年々増加している傾向にあります。
出典:厚生労働省 – 平成 30 年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況より
このように、ハラスメントに関する相談件数が増加傾向にあることから、企業が取り巻く「ハラスメント」問題は、もはや無視できないものとなっています。
ハラスメントに関する問題は、増加の一途をたどっていることが分かりましたか?
次の項目では、ハラスメントに当たる行為をすることによる、処分内容に関して説明します。
ハラスメントに当たる行為をすると、罰則を受ける
立場に関わらず、ハラスメント行為を行うと、様々な罰則を受けることになってしまいます。罰則に関する例を6つ挙げると、次の通りです。
なお、6つの罰則に関しては、責任が軽いものから順番に並べています。
- 口頭あるいは文章において警告される
- 始末書を書かされる
- 減給処分
- 出社停止
- 降格
- 懲戒解雇
ハラスメントが軽いものだと、口頭または文章による警告で済みます。一方でハラスメントの程度が重いものだと、懲戒解雇となってしまうのです。それだけ、ハラスメントは罪に問われる行為なのです。
次の項目では、ハラスメントに当たる裁判事例を、「パワーハラスメント」、「セクシュアルハラスメント」、「マタニティハラスメント」の3つに分けてそれぞれ紹介します。
まずは、「パワーハラスメント」に該当する裁判事例に関して見ていきましょう。
上司が部下に行ったパワーハラスメントの裁判事例
まず、上司が部下に行ったパワーハラスメントの裁判事例について紹介します。
ある日、男性会社員Aが、勤務していたB社の業務に起因して脳梗塞を発症してしまいました。そこでAの妻であるCが、労基署長に労災を申請したところ、不支給処分になってしまったという事例です。
Aは、B社の部長であるDから1ヶ月あたり80時間近くの長時間労働を強いられました。さらに、DはAに1ヶ月以上に2回以上、執拗かつ数回は2時間を超えてAを起立させたまま叱責しました。
このことから、DがAに行った長時間労働だけでなく、執拗に長時間立たせて注意したことから、パワーハラスメントと該当されています。結果的に、不支給処分は取消となりました。
出典:亀戸労基署長事件- 東京地判平20.5.19労経速2022号26頁- 東京地判平20.11.12労経速2022号13頁結論より
上司が部下に行ったセクシュアルハラスメントの裁判事例
次に、上司が部下に行ったセクシュアルハラスメントの裁判事例を紹介します。内容は、厚労省で務める健康局長が、特定の女性職員にメールを送りつけたことです。
メールは、局長自らが主催する勉強会に泊まり出張を含め女性職員に誘いをかけた内容です。メールは約1年間、約400回にも及び、セクハラと思われる内容が記載されていました。
局長が女性職員に送ったメールが、セクハラに該当するとされ、国家公務員法「信用失墜行為の禁止」に当たりました。そして、局長は口頭注意の懲戒処分を受けました。
セクハラは、直接相手の身体を触ることや、嫌がらせの言葉を言うだけでなく、メールに女性を不快にさせる内容が記載されていても該当してしまいます。
出典:産経新聞 – 厚労省、健康局長をセクハラで戒告 食事に…特定の女性職員にメール400回より
上司が部下に行ったマタニティハラスメントの裁判事例
最後に、上司が部下に行ったマタニティハラスメントの裁判事例を紹介します。
ある日、広島にある病院の女性リハビリテーション科副主任が、妊娠を理由として軽い業務への配属を希望しました。ところが副主任を解任され、復職後も副主任に戻れなかったという裁判事例です。
本人が妊娠のために配属転換を希望したのにも関わらず、配属転換を契機に役職を解任することは違法と見なされました。このことから、副主任の解任は無効となりました。
上司は妊娠を理由として、部下の役職を降格・解任させることは違法です。降格の際は、「業務上の必要性」と「有利又は不利な影響」の内容に照らし合わせた「特段の事情」がなければなりません。
「パワーハラスメント」、「セクシュアルハラスメント」、「マタニティハラスメント」の3つに該当してしまう裁判事例を紹介していきました。
どのようなケースが、ハラスメントに該当してしまうかをイメージできましたか?次の項目では、上司がやるべき部下への3つのハラスメント対策に関して紹介していきます。
上司がやるべき部下への3つのハラスメント対策
ここまで、ハラスメントに関して社会背景や裁判事例を挙げながら説明していきました。
ハラスメントに該当する行為をしてしまうと、様々な罰則を受けることが理解できましたか?また、ハラスメントは相手の心を傷つけてしまう行為です。
そこで、職場でのハラスメントを防ぐために、上司がやるべき部下への3つのハラスメント対策を紹介します。3つのハラスメント対策とは、次のとおりです。
- 研修を受けさせる
- 映像を活用する
- 専門のリーダーを選出する
これら3つのハラスメント対策は、「パワーハラスメント」、「セクシュアルハラスメント」、「マタニティハラスメント」全てに対して有効です。ぜひ、上司の方は、これから紹介する対策方法を全て理解してください。
次の項目から、上司がやるべき部下へのハラスメント対策として、研修を受けさせることに関して解説します。
上司がやるべき部下へのハラスメント対策①研修を受けさせる
上司は部下へのハラスメント対策を行うに当たって、部下に研修を受けさせることは必須です。ただし、研修を受けさせるだけでなく、研修の目的を理解させることが重要なのです。
研修の目的は、自分が当たり前だと思っていることが、相手にとって当たり前ではないことを知るためにあります。目的を知ることこそ、ハラスメントを防ぐうえで重要です。
そのため、部下に研修を受けさせる前に、上司は何の目的で研修を受けるかを明確に伝える必要があります。目的を伝えれば、研修の内容をより深く理解することができます。
上司がやるべき部下へのハラスメント対策②映像を活用する
上司が部下へのハラスメント対策をするに当たって、ルールを示したり、研修などの啓発活動をすることが多いかと思います。
その中で、特に活用して欲しい方法が、映像を使ったハラスメントに関する啓発です。映像を使うことで、ハラスメント対策に3つのメリットがあります。3つのメリットをそれぞれ説明すると、次の通りです。
- 文字だけでなく、映像を通じてハラスメントに当たる雰囲気や態度を理解できる
- ストーリー仕立てにすることで、理解しやすいうえにイメージを共有できる
- いつでもどこでも、繰り返し利用できる
ハラスメントは、文字だけでは伝わりにくい部分があります。映像を利用することで、ハラスメントに該当する雰囲気や態度を感じ取りやすいことから、イメージがしやすいです。
さらに、映像は場所を選ばず、繰り返し利用できることから費用対効果に優れています。
ぜひ、文字だけのハラスメント対策だけでなく、映像の活用も検討してみましょう。なお、ハラスメントの映像に関する参考動画がありますので、次の動画を視聴してみてください。
上司がやるべき部下へのハラスメント対策③専門のリーダーを選出
最後に紹介する、上司がやるべき部下へのハラスメント対策は、専門のリーダーを選出することです。多くの会社は、ハラスメント対策として、相談窓口を設置しているかと思います。
しかし実際は、相談窓口を設置したとしても、ハラスメントの被害を受けた本人はハードルが高いと感じてしまうのです。そうして、相談窓口を利用しません。
そんな時に活用したい方法が、「東京ガス」が行っている人権啓発推進リーダーの選出です。1年間の研修を受ければ、誰でもリーダーになることができ、職場の先輩社員に気軽に相談できる感覚で利用できます。
専門のリーダーに悩みごとを気兼ねなく話せることから、会社が用意した相談窓口よりも利用しやすいです。ハラスメントの早期解決に、有効な方法です。
出典:https://tokyo-gas.disclosure.site/ja/responses/261
まとめ
ここまで、上司が知るべきハラスメントの基礎知識を解説していきました。
ハラスメントは、「パワーハラスメント」や「セクシュアルハラスメント」、「マタニティハラスメント」など様々な分類があります。
近年、ハラスメントに関する相談件数は増加し続けているため、上司にとって無視できないものとなっています。最悪の場合、懲戒解雇処分を受けてしまうこともあり、上司が罪に問われてしまう可能性もあるのです。
この記事では、上司がやるべき部下へのハラスメント対策を3つ紹介しました。内容を振り返ると、次の通りです。
- 研修を受けさせる
- 映像を活用して啓発する
- 専門のリーダーを選出する
上司であるあなたが3つの対策を全て理解すれば、ハラスメント対策を実施しやすくなります。ぜひ、対策を実行してみてはいかがでしょうか。
ハラスメントに関する基礎知識を勉強しようとするあなたは、上司として優秀です。この記事で紹介した内容を理解し、実行に移してください。
そして、ハラスメントに悩まされない働きやすい職場環境を実現していきましょう。