「パワハラ防止法が施行されたけれど、何が変わったの?」と疑問に思っていませんか。
ハラスメントに関する法律である「パワハラ防止法」により、企業はパワハラを防止するための措置をとることが義務になりました。
そのため、上司となる管理職の人は、率先してパワハラについての正しい知識を身に付ける必要があります。
この記事では、”パワハラが成立する要件”や”法律で課された義務”について説明していきますので、ぜひ最後までお読みください!
- ハラスメントに関する法律「パワハラ防止法」とは?
- ハラスメントに関する法律「パワハラ防止法」による調停の導入
- ハラスメントに関する法律「パワハラ防止法」の開始時期は?
- そもそもパワーハラスメントとは?
- パワーハラスメントの境界線はどこから?
- ハラスメントの法律「パワハラ防止法」における企業側の義務
- 「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」の具体例
- 「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」の具体例
- 「パワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」の具体例
- 「(1)から(3)までの措置と併せて講ずべき措置」の具体例
- ハラスメントに関する法律「パワハラ防止法」の罰則規定
- ハラスメントの法律「パワハラ防止法」の知識を持とう【まとめ】
ハラスメントに関する法律「パワハラ防止法」とは?
ここではまず、パワハラ防止法とはどういう法律なのか説明していきます。
「パワハラ防止法」は通称であり、正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」です。
この法律自体は以前から存在していましたが、2019年5月の改正により以下の内容が追加されました。この追加された部分がパワハラ防止法と呼ばれています。
第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
引用:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=75008000&dataType=0&pageNo=1
つまり、パワハラ防止法とは「企業はパワハラ防止の措置をとらなければならない。また、社員が企業にパワハラに関する相談をしたことを理由に、不利益な扱いをしてはいけない」と定めたものです。
ハラスメントに関する法律「パワハラ防止法」による調停の導入
これまで、パワーハラスメントに関する紛争の解決手続として、「あっせん」が利用されてきました。しかし、パラパラ防止法の施行で、「調停」も利用できるようになりました。
あっせんによる話し合いは和解契約であり、強制力はありません。それに対して、調停で話し合って決まったことは、裁判の判決と同じ効力を持ちます。
そのため、今後はあっせんよりも強制力のある調停で問題を解決する手続きをとることができるのです。
また、調停を利用すると、非公開の場で当事者間で話し合うことになります。そのため、調停は当事者間で充分に話し合うことができるため、円満に問題を解決することが期待されます。
- あっせん…最低1人のあっせん委員が当事者間に立ち、双方の主張を確認し、話し合いを取りもつこと。自主的な解決が必要。
- 調停…3人の調停委員が当事者の意見を聞き取り調停案を作成し、双方にその受諾を勧めること。委員会が積極的に問題の解決に動く。
ハラスメントに関する法律「パワハラ防止法」の開始時期は?
パワハラ防止法の施行日は、企業の規模によって異なっています。
大企業は既に2020年6月1日から施行されており、中小企業の場合は、2022年4月1日から施行されます。
そのため、中小企業では2022年3月31日までの間は義務ではありませんが、パワハラを防止するよう努めなければなりません。
- 小売業:資本金の額又は出資総額が5,000万円以下で、常時使用する従業員の数が50人以下
- サービス業(サービス業、医療・福祉等):資本金の額又は出資総額が5,000万円以下で、常時使用する従業員の数が100人以下
- 卸売業:資本金の額又は出資総額が1億円以下で、常時使用する従業員の数が100人以下
- 製造業等その他の業種:資本金の額又は出資の総額が3億円以下で、常時使用する従業員の数が300人以下
参考:https://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/teigi.html
そもそもパワーハラスメントとは?
パワハラを防止する対策をしなければならないとありますが、そもそもパワハラとは何かきちんと理解していなければいけませんよね。
そのため、ここでは、パワハラが成立する3つの要素とパワハラの6つの種類について説明していきます。
パワーハラスメントの3つの要素
まず、厚生労働省が2020年3月30日に発表したパワハラにあたる基準3つをもとに、パワハラとは何かを説明していきます。
- 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われる言動(※)
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
※①については、上司から部下に限らず、先輩・後輩間や同僚間、部下から上司に対して行われるものも含まれます。
厚生労働省は、①から③までの要素をすべて満たすものをパワハラと定義しています。
つまり、パワハラとは、優越的な関係にある人の、業務上必要な範囲を超えた、労働者の働く環境を害する言動を意味します。
パワーハラスメントの6つの類型
さらにパワハラの理解を深めるために、ここではパワハラの種類を紹介します。職場のパワハラには様々なものがありますが、代表的な分類は以下の6つとなります。
- 身体的な攻撃(暴行・傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・酷い暴言)
- 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
- 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
- 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
- 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
パワハラというと、身体的・精神的なものを思い浮かべがちですが、仕事を与えないといった過小な要求もパワハラに該当することも覚えておきましょう。
パワーハラスメントの境界線はどこから?
これまでパワハラとは何かについて説明してきました。さらにここでは、どこからどこまでがパワハラなのかを説明していきます。
パワハラの加害者にならないためにも、「仕事を行う上で必要な指導」と「パワハラ」の境界を知っておかなければなりません。
そこで、厚生労働省が発表した「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針」の中で取り上げられているパワハラの境界線について説明していきます。
<身体的な攻撃>
6つの類型の1つ目の「身体的な攻撃」に該当すると考えられる例は、殴打や足蹴りを行ったり、怪我をする恐れがあるような物を投げつけたりすることです。
それに対し、該当しないと考えられる例は、誤ってぶつかってしまったり、誤って物をぶつけてしまって怪我をさせてしまったりすることです。
<精神的な攻撃>
6つの類型の2つ目の「精神的な攻撃」に該当すると考えられる例は、人間性を否定することや何度も大声で威圧的に叱り責めることです。
それに対し、該当しないと考えられる例は、社会的ルールやマナーを何度注意しても改善しない社員や仕事で大きな問題を起こした社員を強く注意することです。
<人間関係からの切り離し>
6つの類型の3つ目の「人間関係からの切り離し」に該当すると考えられる例は、自分の考えに沿わない社員を仕事から外したり、集団で無視して職場で孤立させたりすることです。
それに対し、該当しないと考えられる例は、処分を受けた社員を通常の業務に復帰させる前に、個室で必要な研修を受けさせることです。
<過大な要求>
6つの類型の4つ目の「過大な要求」に該当すると考えられる例は、到底対応できないレベルの業務目標を設定し、達成できなかったことを厳しく叱り責めることです。
それに対し、該当しないと考えられる例は、社員を育成するために、社員の現状よりも少し高いレベルの業務を任せることです。
<過小な要求>
6つの類型の5つ目の「過小な要求」に該当すると考えられる例は、気に入らない社員に嫌がらせのために仕事を与えないことです。
それに対し、該当しないと考えられる例は、労働者の能力に応じて、業務内容や業務量を減らすことです。
<個の侵害>
6つの類型の6つ目の「個の侵害」に該当すると考えられる例は、職場以外での社員の継続的な監視や社員の個人情報を本人の了解を得ずに他の社員に暴露することです。
それに対し、該当しないと考えられる例は、社員の了解を得て、個人情報を必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝えて、配慮をしてもらうことです。
ハラスメントの法律「パワハラ防止法」における企業側の義務
ここまで読んでくれた方は、パワハラとはどのようなものか理解して頂けたと思います。
では、次にパワハラ防止法により課された企業の義務についての理解を深めていきましょう。
そのため、ここでは企業がパワハラ防止のために行う義務について説明していきます。
厚生労働省より発表された「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針」に示されている措置を以下で紹介します。
- 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
- 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- パワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
- ⑴から⑶までの措置と併せて講ずべき措置
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
つまり、パワハラを防止するためには、パワハラが起こらないように啓発を行うだけではなく、パワハラが起こった後の対応について考える必要があります。
次の章より、上記の措置がどういうものかを具体例を交えて説明していきます。
「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」の具体例
まず1つ目の「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」は、パワハラの禁止を社員に周知させることを指します。
ここでは、厚生労働省で推奨されているいくつかの具体例を紹介していきます。
- 就業規則でパワハラを行ってはならない旨の方針を規定し、それと併せてパワハラの内容や発生の原因を社員に周知させる
- 社内報や社内HPにパワハラの内容や発生原因、行ってはならない旨を記載し、配布する
- パワハラを行ってはならない旨の方針を社員に周知することを目的とした研修を実施する
- パワハラを行ったものは懲戒処分となることを社員に周知させる
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」の具体例
次に2つ目の「相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」は、企業が社員からの相談に対し、内容や状況に応じた対応をするための体制を整備するために行うべき措置を指します。
ここでは、厚生労働省で推奨されているいくつかの具体例を紹介していきます。
- 相談窓口をあらかじめ定めて、社員に周知する
- 相談窓口の担当者が相談を受けた際に人事部門と連携をとる仕組みを作る
- 相談窓口の担当者が相談を受けた際に注意する点をまとめたマニュアルを作成する
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
「パワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」の具体例
次に3つ目の「職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応」は、企業がパワハラの相談を受けた場合に、事実の確認や適正な対処をするために行うべき措置を指します。
ここでは、厚生労働省で推奨されているいくつかの具体例を紹介していきます。
- 相談窓口の担当者、人事部門や専門の委員会が相談者と加害者から事実関係を確認する
- パワハラの事実の確認が困難な場合、調停の申請を行う
- パワハラの被害者と加害者の関係改善に向けての援助や必要に応じた配置転換を行う
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
「(1)から(3)までの措置と併せて講ずべき措置」の具体例
次に4つ目の「(1)から(3)までの措置と併せて講ずべき措置」とは、(1)から(3)を行うに伴い、併せて行うべき措置を指します。
ここでは、厚生労働省で推奨されているいくつかの具体例を紹介していきます。
- 相談者・加害者のプライバシー保護のために、相談窓口の担当者に必要な研修を行う
- 相談窓口において相談者・加害者のプライバシーの保護を行うための措置が講じられていることをパンフレットや社内HPに記載する
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
ハラスメントに関する法律「パワハラ防止法」の罰則規定
現在、「パワハラ防止法」には刑罰や行政罰を科すような罰則規定ありません。
しかし、パワハラの問題が見受けられれば行政指導が入る場合があります。また、企業側の義務であるパワハラ防止策をとらず、是正勧告にも従たわなければ、厚生労働省が企業名を公表する場合もあります。
さらには、悪質のために刑事事件として裁かれた場合、暴力を振るえば「傷害罪」や「暴行罪」、精神的に攻撃すれば「侮辱罪」や「名誉棄損」として罪に問われる可能性もあります。
ハラスメントの法律「パワハラ防止法」の知識を持とう【まとめ】
この記事では、パワハラに関する法律である「パワハラ防止法」について説明してきました。
パワハラ防止法には罰則の規定はありませんが、社名公表の可能性もあるため、会社側はパワハラ防止法に定められた義務を果たさなければなりません。
そのために、事業者や管理職の人がパワハラについて理解を深めるだけではなく、すべての労働者に理解を深めてもらうことや相談窓口を設置するなどの活動が必要になってきます。
職場で社員が気持ちよく働くことができれば、必ず仕事の効率も上がります。そのためにも、パワハラを起こさないように理解を深め、対策を練っていきましょう!